軽度認知障害(MCI)は認知症の予備軍といえる状態のことで、認知症になる危険があります。その危険を防ぐ方法はあるでしょうか?
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認知症予防への道
認知症の人が増えていくことは、もはや覆せない事態とみなされています。
「認知症にはなりたくない」。それは万人の願いです。当然の願いなのですが、現実にはどんな著名な政治家でも医師でも、認知症になる人はいます。だれしも自分が認知症にならないという保証はないので漠然と、大きな不安をかかえています。
まずはある情報番組から得たことが多々あり、その記録をここに記します。「NHKスペシャル シリーズ認知症革命第1回 ついにわかった! 予防への道」(2015年11月14日放送)です。
まずは番組の内容から・・
*番組内の情報は放送当時のものです。
*このページは放送された言葉そのものを記してはいません。視聴者の1人がこう解釈したという内容になります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━ここから番組内容のメモ
あなたが将来認知症になるかどうか、それを見きわめるカギは、歩き方にあることが分かってきました。歩く速さを測定することで、将来、認知症になる危険性が判定できるのです。なぜなのか。
最近、脳の中に特別のネットワークがあって、それが衰えると認知症につながるということが分かってきました。しかもそのネットワークの衰えがあなたの歩き方に現れるといいます。
でもご安心ください。衰えをいち早くとらえて、ある対策をとれば認知症を予防することの可能性が明らかになってきたのです。
この方法は、認知症の発症を防ぐ確実なものだと言えるでしょう。さらに認知症の発症を食い止められる薬も次々と登場しようとしていま す。認知症はもはや防ぎようのない恐ろしいものではありません。最新科学によって、認知症を予防するたしかな道が見えてきたのです。あなたとあなたの大切な人の未来を守るために、認知症の予防にいどむ最前線に迫ります。
認知症予防の可能性が次第に見えてきたのです。これを見てください。日本での認知症の人の推計です。2050年には1016万人。1000万人を突破する、これではまずいということです。
しかし、これまでの認知症のイメージを覆すようなことが分かってきました。今日はまず予防です。
「私最近、冷蔵庫に行ってあれ? 何を取りに来たんだっけ?」と思います。
「僕は水道を出しっぱなしにして、床に一晩中・・・」
いわゆるもの忘れですね。
それが年のせいだと思っていたら違うこともあるのです。加齢からくるものと思っていた。でももの忘れといっても認知症との瀬戸際かもしれません。
雑誌記者の山本朋史さん。(以下山本さんの体験がかなり織りまぜられます)63歳。この道30年、事件報道から文学の特集まで出版の世界の第一線で働いてきました。ところが61歳を過ぎたあたりから、自 分のもの忘れが激しくなってきました。友人の名前が思い出せないとか、単に年せいかと思っていたらあるとき、大事な約束を忘れてダブルフッキングをしてし まいました。
ショックで、はじめは認知症などと思いたくなかったのですが、しかし現実を見て、少しおかしくなっているかなと考え、専門病院を受診することになりました。
2年前のことです。認知症かどうかを調べるテストを受けました。その結果、告げられた病名は山本さんの聞いたことのない病名MCI(軽度認知障害)でした。
MCIとは、正常と認知症の境目であり、認知症の予備軍。通常は年をとるにつてれ記憶力や判断力などの認知機能が徐々に衰えていきます。その衰え方が進むと、ある水準を下回り認知症になります。MCIとは、いわば予備軍と呼ばれる段階です。
そのMCIと診断された山本さんは、認知症になる危険性を指摘されたのです。しかしその後、意外な事実を知って絶望が希望に変わりました。MCIは対処のしようによっては治るものだと聞いて、安心した、僕は危機一髪だったと思います。
軽度認知障害(MCI)の段階なら、認知症を予防できる
じつは世界でもMCIの段階なら、認知症を予防できるという研究が進んでいます。アメリカではMCIと診断された高齢者600人がどれくらい認知症になる か追跡調査を行いました。その後の5年で、5割の人が認知症を発症。しかし4割の人は維持。そして1割は能力が戻っていました。
その人たちは何か脳にいいことをしたはずです。それが何かを見きわめられれば、認知症を予防できるはずです。MCIの人が認知症になるのを防ぐ。それが目標です。MCIはラストチャンスなのです。
山本さんも、MCIの人たちとともに発症を防ぐ対策に取り組んでいます。その対策については番組の後半でご紹介します。
自分がMCIでないか、ふつうのもの忘れでないか、気になります。60代くらいになるとみんなMCIなのか? 山本さんにも来ていただきました。さっき5 割が…ということでしたが、どのあたりかというと、維持しているか少し上がっているかもしれません。2年前にMCIと診断されて、いまも仕事も続けていま す。
MCIはもの忘れとは違い、加齢のものとは違い人に迷惑をかけるような間違いがあり、簡単な漢字が書けなかったり人の名前が出てこなかったり、そうしているうちにダブルフッキングしてしまった。そのもの忘れの度合いは、年相応以上の記憶障害。さらに認知症になると、生活に支障が出るほどの程度になります。
一般に言われるのは、有名な俳優の名前が出てこない等々は、年齢相応のもの。よく山本さんは気が付きましたね。人に迷惑をかけてしまったので、気が付いたのです。今の仕事を続けらるかと思って「ものわすれ外来」に行きました。
その専門を受診する人は多くはない。この段階で受診する人が少なく、専門のことは分かりにくい。MCIかどうかの診断は、かなり難しいもので、専門医がしっかり診ないと分からない。MCIのことを知らない医師が、正常だと言ってしまうかもしれません。
大切なことは MCIの早期発見。MCIの人の脳で、何が起きているか次第に分かってきました。何が起こっているのでしょうか。段階が進みアルツハイマーになった人の脳は、萎縮が進んで記憶をつかさどる部分が黒く萎縮しているのが見えます。
では何を調べたらいいでしょうか? 科学者たちが注目したのは新たな脳内ネットワークという脳の働きです。ネットワークは、何をする時にも離れた複数の箇所 が、同じタイミングで働いていることが分かりました。たとえば簡単な計算のネットワーク、他にも視覚のネットワークなど様々なネットワークが存在していま す。
脳内ネットワークに起きる異変とは?
アメリカのワシントン大学の研究者が注目したのは、脳内ネットワークの結びつきの強さです。それがMCIから認知症に進むとき、どのような変化をするか。認知症に進むとネットワークのつながりはおとろえています。
脳内ネットワークの弱まりをいちはやく捉えられたら・・・ ある日常生活の動作を見るだけで脳内ネットワークの役割が分かるというのです。
正常の人と、MCIの疑いのある人の歩き方を比較して見ると、MCIの人は歩く速さが遅くなっています。さらにセンサーで足の運び方を測定します。疑いのある人では歩幅が狭くなっています。
さらに足裏にかかる圧力が一定でなく、ふらつきやすいことが分かっています。
なぜ歩行が不安定になるのでしょうか。じつは歩いているとき、人は刻々と変化する周囲の状況を瞬時に判断しています。さらにバランスに関わるたくさんの脳内ネットワークが働いています。
しかしMCIの人は、これらのネットワークが弱まっています。そのため歩き方遅くなったりバランスが不安定になったりするのです。
脳内ネットワークに損傷が起きると、歩行やバランスに問題が起きます。歩く速度をストップウオッチで測るそれだけで、将来、認知症になる可能性が分かるのです。
研究グループは17か国27000人の認知症発症のデータを調べました。その結果、歩く速度がある基準より遅い人は認知症になる率が高いことが分かりました。
認知症になる人は、歩く速さがある基準より遅い人は1・5倍に、さらに記憶力低下の自覚のある人は2倍になるということが分かりました。
桂さんの歩行。秒速105センチ。MCIの人の歩くスピードは秒速80センチ以下ですので大丈夫でした。
VTRで紹介したバギース教授によると秒速が80センチ以下になると注意が必要です。歩く速さをどう測るかというと、たとえば横断歩道で青になった瞬間に 歩きはじめて、かつては信号を渡り切れていたのに最近、途中で赤に変わってしまい渡りきれない…という人は注意が必要です。
画面のしたの歩き方が秒速80センチの速度です。あなたは心当たりありませんか。
そもそも年をとると歩くのが遅くなるのですが、しかし膝が痛いとか腰が痛いという遅くなる原因が、明らかな原因がないのに遅くなるというのは、脳内ネットワークの損傷が考えられます。
MCIと診断された山本さんは、当時それを感じていましたか? 診断の前後に自宅から駅まで3分くらい遅くなっていました。
たしかに歩行速度が遅くなるのは、ひとつのサインですが、もう一つは歩行のリズムが悪くなる。歩行にはリズムがあり、最初に出てくるのはリズムの乱れです。
鳥取大学教授浦上克哉さん(日本認知症予防学会理事長)がまとめてくれました。
MCIの人に見られる変化の例としていろんな兆候があります。
1 外出が面倒になる
2 外出時の服装に気を使わなくなった
3 同じことを何度も話すことが増えたと言われる
4 小銭での計算が面倒で、お札で払うようになった
5 手の込んだ料理を作らなくなった
6 味付けが変わったと言われる
7 車をこすることが増えてきた
脳内ネットワークの乱れがこのような状況を引き起こしています。このうち3項目以上当てはまる方は専門医を受診されたほうがいいです。
山本さんの場合は、1、2、4が当てはまった。計算が面倒だから、小銭入れがパンパンになるというのは初期から出る症状です。たとえば125円を払うというのは面倒になります。また山本さんは、
外出が面倒になり、以前はマメに外出していました。また当時はパジャマ程度の服で外に出ていました。正装する場の判断が面倒になり、服を選ぶのが面倒になる。
手の込んだ料理というのは、とても複雑な作業です。献立を考え買ってきて調理する手順を考えるので複雑な作業。どうしても簡単な料理になったり、出来合いのものを買ってきたりします。
軽度認知障害を予防するには?
次はMCIの予防法です。どうすれば脳内のネットワークを回復できるか、予防できるか。MCIになっていない人が予防できるか。
MCIの段階から始まっている脳内ネットワークの衰えを回復するには・・・脳内ネットワークを結び付けている正体は、情報を電気信号で伝える神経細胞です。神経細胞はまわりの血管から栄養と酸素をもらって活動しています。
この神経細胞や血管に異常が起きることが、ネットワークの衰えの原因なのです。最近、注目されているのが微小出血。細い血管がもろくなって起こるわずかな 出血。これが起こると周辺の細胞が死んで、ネットワークが傷ついてしまいます。このようにところどころに黒い点がみつかります。それが微小出血です。
実際MCIから認知症に進行するにつれて、微小出血が見られる人が増えます。それならば血管の状態をよくして、神経細胞が死ぬのを防げれば、脳内ネットワークによい影響があるはずです。
イリノイ大学のクレイマー教授は、ネットワークが改善する方法を発見しました。あることを一年間続ければいい。それはすこし息がはずむ程度の早歩きを、一回一時間、週に三回続けます。
早歩き程度の運動をすると、血液中にVEGF(血管内皮細胞増殖遺伝子)という物質が放出され、傷ついた血管の代わりに新しい血管を作るように促します。 さらに早歩きによってBDNFという物質も増えます。この物質は、神経栄養因子で新たな神経細胞が生まれるのを促します。
このようにして脳内ネットワークの結びつきが強くなると考えられます。続けることで若い人のように変化していました。脳が若返り、健康になったのです。
フィンランドでは、MCIの疑いのある1260人の人に協力を得て「フィンガー研究」という世界にも例をみない大規模な予防研究を行いました。その結果、早歩きの運動にいくつかのことを組み合わせるとより効果のあることが今年、明らかになりました。
早歩きついては週に三回。一日30分程度。1)
軽い筋力トレーニングも取り入れました。2)
さらに食生活を改善します。3)
動物性脂肪や塩分を減らし、代わりに抗酸化物質が強い野菜や魚などを積極的にとることで神経細胞や血管を守ります。
神経衰弱のような記憶力のゲームを週に三回。10分程度 4)
さらに毎日の血圧管理。5)
高血圧を防ぐことで微小出血を防ぎ、脳を守ります。こうした神経細胞や血管を守生活を二年間続けました。その結果、認知機能が平均25%も上昇しました。低下するはずの認知機能が上昇したのです。
カロリンスカ研究所 ミカ・キビベルトさん
認知症の危険を減らすことは可能なのです。本当にうれしい驚きです。予防を始めるのに遅すぎることはありません。
しかもフィンランドの研究では能力がアップしました。これはすごいことです。
国立長寿医療研究センター 部長 島田裕之さん。
認知機能は、通常は加齢とともに落ちてくるのが当然。それなのにフィンランドの研究では衰えを揚げることが出来たのは、インパクトが大きい。大事な研究だと思います。
もう一度まとめると
運動:早歩きと筋力トレーニング
食事:塩分と脂肪を控える。野菜・果物・魚を増やす
認知トレーニング:記憶力のゲームなど
健康管理:血圧の管理、健康診断、健康相談
この研究では、組み合わせることで相乗的な効果があったわけです。
山本さんは運動とか、しているのですか?
強めの筋トレや早歩きをしています。ダンスをやったり、すると女性の手を握るだけでドキドキするし。音楽もこれまで歌ったことがなかったですが、このトレーニングをやってから、いろんなものを前向きに取り組め、頭の中のもやもやしたものが、スッキリした感じです
桂文枝さんは落語の稽古をしながら一時間歩いています。それは非常にいいです。考えながら運動するといい。脳が活性化される。脳の機能、記憶力の向上にいいことです。
具体的に歩くのは何歩くらいですか?
歩数よりも、運動の強さに意識を向けて、脈をとってもらって1分間に120くらいの、ちょっとどきどきするくらいがいいです。
10分くらいでいいので一日に何回か行う。運動のための運動はなかなかできないので、そのあり方は「ちょいたしウォーキング」と呼んでいますが、歩幅を5センチだけ広げて歩くと、体にかかる負荷が増えるのでそれを意識してほしい。
アメリカでは、治療薬がの開発が急ピッチで進んでいます。ジョンズ・ポプキンズ大学。
MCIの人に予防薬の開発が進んでいます。「てんかん」の治療役として使われているレベチラセタムという薬。この薬に脳内ネットワークを改善する働きがあ ることが分かりました。これを投与したところ回復しました。来年の初めから臨床試験を行い、成功すればMCIの人の薬として2019年にアメリカで実用化 される見込みです。(まだ使えません)
日本でもMCIの人を対象とした別の予防薬の研究が進んでいます。国立循環器病研究センター医長猪原匡史さん。シロスタゾールがMCIの人の認知機能低 下を止められるか、治験を始めました。 シロスタゾールとは、現在は脳こうそくの再発を防ぐために使われている薬です。この薬は脳の血管出血を防ぐなど の効果が期待されています。成功すれば6年後には実用化される期待されます。
認知症に対して、より早期介入というのが常識になる時代がきてほしいものです。
高浜市国立長寿医療研究センターでは、「脳とからだの健康チェック」を行っています。今年の九月、愛知県高浜市で一万人を対象に、認知症のリスク検診を始めました。最新の検査手法を取り入れ、歩く速さはリズムの乱れもチェックします。専門家が地域に出て、見つけ出そうというのです。さらにこの取り組みは、 検査だけ終わりません。全員にプレゼントされるのが「活動量計」で歩数はもちろんのこと活動量を測ります。
これをつけて歩いてもらうための工夫があります。家にこもりがちな高齢者でも、思わず歩いて訪ねたくなる個所を、市内全域に設けました。その数は78か所 です。認知症予防に効果があると考えられるメニューが実施されています。すべてのスポットには専用の端末が用意されています。活動量計を端末にかざすと一 日の数値が表示されます。
島田さんが指揮を取ってやっていますが、これは病院に来ていただくのを待つのでなく、地域に出てはやく予防の機会を持ってもらうことが大事だと考えています。つい先日まで、認知症は治らない、治らないから予防できないと考えられていました。
すべての病気は予防できるということから克服できてきました。もっとMCIの早期発見ができるような、専門医やかかりつけ医を増やしていくことが重要。
今はまだ認知症検診というものができていない。国が整備していく必要があるかなと考えています。
がんの早期発見と同じように、MCIの段階で発見できて良かったなと思える社会が、できるといいなと思います。自分のこととして考えていなかければならない。怖がってばかりいられない。克服できると聞くと安心できる。
山本さんの姿に勇気づけられます。これからみんなが通る道だから。